目次
1.電子帳簿保存法における事務処理規定とは
2.スキャナ保存に必要とされる書類や規定
3.事務処理規定を作成しない場合のペナルティについて
4.事務処理規定を作成しなくても良いケース
5.さいごに
1.電子帳簿保存法における事務処理規定とは
電子帳簿保存法への対応に必要な「社内規定」です
電子帳簿保存法の要件に適合するために、電子データの保存・管理に関する社内のルールや手順を明確にする「社内規定」の策定が求められます。この規定には、以下のような内容を含める必要があります。
1)電子帳簿の保存方法
- どのシステムやツールを使用して電子帳簿を保存するか
- 保存期間や保存場所の指定
- 安全性を確保するための措置(バックアップやアクセス権限管理)
2)真実性の確保
- 改ざん防止のための対策(タイムスタンプ、改ざん防止システムの導入など)
- 監査証跡の管理
3)検索性の確保
- 保存した電子帳簿の速やかな検索・閲覧が可能であることを担保するためのルール
- 関連する情報をすぐに取得できるような検索機能の整備
4)運用管理体制
- 電子帳簿の運用に関する担当者の役割や責任
- 定期的な運用状況の確認や監査手続き
これらを踏まえた上で、規定を作成し、社内での運用を統一することが重要です。また、社内規定が実際に守られているかどうかの定期的な確認や、法改正に対応した適切な更新も必要です。
社内規定の作成を怠ると、法令遵守に問題が生じる可能性があるため、電子帳簿保存法を正しく運用するための重要なステップとなります。
2.スキャナ保存に必要とされる書類や規定
電子帳簿保存法では電子取引のデータ保存のほかに、「スキャナ保存」と「国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存(電子帳簿等保存)」という2つの区分を設けています。この2つの区分の対応は任意ですので、義務ではありません。
このうち、「スキャナ保存」は電子取引のデータ保存と同様、取引先等との間で授受した取引関係書類などの保存に関する区分です。スキャナ保存の要件に事務処理規程の作成は含まれませんが、スキャナ保存の要件として、スキャナ保存の手順や担当部署を明らかにした書類の作成が必要です。
また、書類の受領からスキャナ保存までの各事務の処理に関する規程を作成することで、書類の受領からスキャナ保存するまでの期間を延ばせます。
スキャナ保存の手順や担当部署を明らかにした書類
スキャナ保存では、システムの概要書や仕様書、操作説明書などと共に、スキャナ保存の手順や担当部署を明らかにする書類の備え付けが必要です。
「スキャナによる電子化保存規程」は、国税庁の「参考資料(各種規程等のサンプル)」からサンプルをダウンロードできます。
書類の受領からスキャナ保存までの各事務の処理に関する規程
スキャナ保存は、書類の作成や受領から概ね7営業日以内の入力が原則です。ただし、書類を作成・受領してからスキャナ保存するまでに行う各事務の処理に関する規程を設けている企業等は、最長2か月以内の業務処理サイクル経過時から、概ね7営業日以内の入力が認められます。
なお、「国税関係書類に係る電子計算機処理に関する事務の手続を明らかにした書類」は、国税庁の「参考資料(各種規程等のサンプル)」からサンプルをダウンロードできます。
スキャナで読み取ったファイルを保存する場合の注意点
電子帳簿保存法の対応のためには、以下条件でのスキャナ読み取りが必要です。
- 解像度: 200dpi以上
- カラー: RGB256階調相当以上
3.事務処理規定を作成しない場合のペナルティについて
電子帳簿保存法に基づき、社内規定を作成せずに法の要件を満たさない場合、いくつかのペナルティやリスクが発生する可能性があります。主なペナルティや影響は以下の通りです。
1)税務上の不利益
- 青色申告の承認取消し:電子帳簿保存法の要件を満たさない場合、青色申告の承認が取り消される可能性があります。青色申告は、税制上の特典(例えば、青色申告特別控除など)があるため、その承認が取り消されると税負担が増えることになります。
- 帳簿の否認:適切に帳簿が保存されていない場合、税務調査で帳簿が無効と判断され、過去の税務申告内容が修正される可能性があります。その結果、追徴課税が発生することがあります。
2)罰則や過料の発生
- 電子帳簿保存法では直接的な罰金や刑事罰の規定は設けられていないものの、税務調査などで不備が指摘され、結果として罰則や追加の税金、過料が課される可能性があります。
3)罰則や過料の発生
- 税務調査や監査の際に、電子帳簿保存のルールや手続きが整備されていないと、記録が適切でないとみなされ、監査対応に時間やコストがかかる可能性があります。また、信頼性を疑われることにより、長期的に信用が損なわれるリスクもあります。
4)業務の混乱や運用リスク
- 社内規定がない場合、電子帳簿の管理や運用に一貫性がなくなり、データの紛失や改ざんなどのリスクが高まります。これにより、企業の内部管理や外部との信頼関係が損なわれ、さらなる業務上の問題が発生する可能性があります。
5)データの検索性や真実背の担保不足
- 検索性や真実性の確保に関する要件が満たされていない場合、税務調査時に迅速に必要な情報を提供できない可能性があり、結果的に課税額の見直しや罰金が発生することがあります。
これらのリスクを回避するために、電子帳簿保存法に対応した社内規定の策定は必須と言えます。また、実際に規定を運用し、定期的に見直すことが重要です。
4.事務処理規定を作成しなくても良いケース
繰り返しになりますが、事務処理規程は、電子取引のデータ保存をする際に求められる「真実性の確保」の要件の1つです。別の方法で真実性を確保できる場合は、事務処理規程を作成する必要はありません。
具体的には、電子取引に対応したシステムの導入を行う場合が該当します。タイムスタンプの付与が可能なシステムや、訂正・削除の履歴が残るシステムを利用するのであれば、事務処理規程がなくても真実性を確保できます。
電子取引のデータ保存に関する猶予措置
2024年1月1日以降、改ざん防止や検索機能といった対応をしなくても、単純に電子取引のデータ保存をしておけばよいという猶予措置が整備されました。ただし、猶予措置が適用されるためには、以下にあげる2つの要件を両方満たす必要があります。
猶予措置の要件
- 要件を満たした保存ができない相当の理由があると所轄税務署長が認める(事前申請不要)
- 税務職員の求めに応じて、整理されたデータとプリントアウトした書面をそれぞれ提示、提出できる
これはあくまでも猶予措置であり、永続的な制度ではありません。できるだけ改ざん防止や検索機能の対応を進めるようにしましょう。
5.さいごに
改正電子帳簿保存法によって、2024年1月1日以後、ほぼすべての事業者は電子取引のデータ保存の対応が必要です。電子取引のデータ保存要件の1つである「真実性の確保」を満たすためには、一定の機能を有するシステムの導入、または事務処理規程の作成とそれに沿った運用が必要です。自社に合った対応方法を検討し、実施しましょう。
なお、事務処理規程を設けて運用を行っていた事業者が、後からシステムを導入することも可能です。事務処理規程を設けてしばらく運用を続けた後、システム化のメリットが自社にとって大きいと感じたときは、システムの導入を検討してみてください。